突然話しかけられたことに戸惑ったが、
「いえ…」

那智は視線を下に向けると、首を横に振った。

「その書類…」

そう言った彼に、
「えっ?」

那智は顔をあげた。

「秘書課に届けるんだったら、俺が代わりに届けに行こうか?」

「いえ、結構です…」

那智は首を横に振りながら答えた。

自分が頼まれた仕事だ。

今日初めて出会った見ず知らずの誰かに任せるなんて、そんなのできない。

「社長」

自分と彼の間に入るように、その声が聞こえた。

(えっ、社長?)

それが目の前の男だと言うことに気づくまで、時間はかからなかった。