Monsoon Town

「なーんで、私だけないんだろう…」

那智は自虐的に呟くと、ロッカーを開けた。

ロッカーの中にある鏡に映っている自分と目があった。

そこには、厳しいお局様を演じる自分の姿がいた。

那智は鏡から目を反らすと、スーツから制服に着替えた。


「桃井」

パソコンとにらめっこしていた那智を呼んだのは、部長の西山春海(ニシヤマハルミ)である。

アラフォーとは思えないルックスと爽やかな印象が素敵な男だ。

「何でしょう?」

「この書類を、秘書課の方に届けてくれないか?」

那智の前に茶封筒に入った書類を差し出し、西山が言った。

那智はそれを受け取ると、
「秘書課ですね、わかりました」
と、返事をした。

「頼んだよ」

西山はそう言うと、那智の前から立ち去った。