走って、走って…もう、訳がわからないくらいに走った。

逃げたかった。

とにかく、逃げたかった。

ただ、それだけのことだった。

無我夢中で走った。

過呼吸になったのかと思うくらいに、息が荒かった。

呼吸をするのが苦しかった。

足が痛いのは、長い時間自分が走っていたと言う証拠である。

「――はあっ…」

おぼつかない足取りは、まるで酔っているみたいだ。

酒は飲んでないのに酔っているなんて、滑稽過ぎて笑える。

フラフラした足で、陣内は窓ガラスにもたれかかった。

真っ暗な廊下の唯一の灯りは、月の光のみである。