ドキッ…って、何で心臓が鳴ったんだ?

「早く早く!」

グイグイと腕を引っ張るひまわりの顔は、無邪気な子供そのものの笑顔である。

「わかったから急かすな、海が逃げる訳でもない」

「海は逃げなくても日が暮れます!

早く行きましょう!」

「わかったから腕を引っ張るな」

ひまわりに急かされながら、陣内はホテルを後にした。

第3者から見れば、楽しそうな恋人同士の光景だ。

「――私には、入る隙間がないわ…」

誰もいなくなったロビーに、那智の小さな呟きは静かに消えた。