Monsoon Town

それから陣内の方に視線を向けると、
「じゃあ、あたしはこれで」

上品に笑いながら、その場から立ち去ったのだった。

綾香の後ろ姿が見えなくなると、
「全く、あの令嬢は!」

片手で髪をクシャクシャにしながら、陣内が言った。

「陣内さん、親戚って…」

「気にするな。

あいつが勝手に言ったことだ、信用する必要はない」

「それにしても、かわいい人でしたね」

(どこがだ!)

そう言いたくなったが、ニコニコと笑っているひまわりの手前、陣内は黙った。

「あの人が陣内さんのお嫁さんになるんですね」

そう言ったひまわりに、
「――お前だったら、よかったのにな…」

気づけば、陣内は無意識にそんなことを言っていた。