つかんでいた藤堂の肩を払うと、綾香は陣内に駆け寄った。

「あなたには一体、誰がいるの!?」

綾香は聞いた。

「あなたは誰を思ってるの!?」

口調が早口なのは、この際どうでもよかった。

今は陣内の気持ちが聞きたい。

彼の口から、彼の言葉を聞きたい。

彼の思っていることをこの耳で聞きたい。

「――帰れ」

低い声で、陣内が言った。

「お前に話すことなんて、俺にはない」

躰の芯まで凍りついてしまいそうなくらいの、冷たい声だった。