「どうして?」

綾香は聞き返した。

陽平は目線を少し下に向けると、
「何かを隠しているような気がするんだ、陣内さん」
と、言った。

「何かを隠してる…?」

陽平のマネをするように、綾香は同じ言葉を口の中で呟いた。

「一瞬だけど、彼の目に寂しさが見えたんだ。

何か秘密を抱えているような、そんな寂しさを持った目だった。

まるで、心の中に誰かがいるような」

それは、綾香も感じたことだった。

彼の心の中には、誰かがいる。

そして、自分はそんな彼の心の中にいないことも同時に感じた。