昼休み。

那智は化粧ポーチを持つと、トイレへと立ち寄った。

鏡の前で簡単に化粧を直して済ませると、確認をした。

「髪の毛よし、マスカラよし、口紅よし」

確認している間も、心臓はうるさいくらいに高鳴っていた。

「――夢なんかじゃないんだよね…?」

誘われてから数時間が経ったと言うのに、未だに信じられない。

「あ、桃井先輩」

その声に振り返ると、後輩の彩花だった。

パーマのかかったセミロングの黒髪とかわいらしい顔立ちが特徴的だ。

「あ、うん…」

どう考えても返事がおかしいと、自分でも思った。