それを聞いた藤堂は、ズキンと胸が痛んだ。

あの日――それは、陣内にとって忘れることができない出来事のある日だ。

(ああ、もうその季節か)

痛み出す胸を藤堂は落ち着かせた。

「返事はわかっているけど、隆平に言って欲しい」

彼が悲しそうな顔を浮かべながら言ったのは、あの出来事は彼にとっても忘れられないからだ。

藤堂はそんなことを思いながら、
「――わかりました、そうお伝えします…」
と、返事をした。

もっと気の利いたことが言えなかったのだろうか。

そんな自分を恨みながら、藤堂は痛み出す胸を落ち着かせていた。