そんな私の言葉を聞いた前田君は、少し困ったような素振りを見せる。

どうやら図星の様だった。普段は見れない前田君の困った表情を見た私は、自然と笑い声を出してしまう…。

「てめっ…笑うなっ」

私に笑われたのが悔しかったのか、前田君はオーバーなリアクションを取りながら、少し怒った様子を見せる。そんな前田君の姿を見て、またも私は笑ってしまう…。

「あぁおかしいっ…こんな風に笑ったの何か何時ぶりかな。覚えてないや…」

ホントに遠い昔の様に感じる。家でも学校でも最近、笑った記憶がない…。

「俺もお前が笑っているところ何か初めて見たぜ…いつも黙って無表情だったもんな」

前田君は、怒っていた表情を柔らかいものにすると、そう言ってきた。

「…前田君、私の事知ってるの?」

前田君が私の事を知っていた事に私は驚いた。前田君と私はクラスも違うし、タイプも違う。

私は空気の様に教室で時間が経つのを待つ幽霊みたいな存在で、前田君は学校中の先生以外の人間のほとんどの人気者と言っても良い存在。

ルックスも格好良いから、女子にも人気がある。接点の何もない私の事を知っているのが不思議でしょうがなかった。

「知ってるってか、お前がイジメられているところを何度か見た事があるだけだよ。正直に言えば、お前の名前も俺は知らない…」

「そっか…見られてたんだね」

心当たりは凄くある。言いだせばキリがないほどに…。

「名前」

「えっ?」

「俺はお前の名前知らねぇんだ…教えてくれよ」

前田君は、私に名前を聞いてきた。

「新藤…光です」

同学年に、改めて自分の名前を教えるのって、ちょっと恥ずかしいわね…。