さっきまで何も恐怖を感じていなかった私がどうかしていた。

怖い…死ぬのが怖い。

私は自分の心臓が痛いぐらいに高鳴る鼓動を感じながら、呼吸の苦しさを感じていた。

一人恐怖で泣きじゃくる私を、前田君は背中を優しくさすってくれていた。さっきまで数多く開いていた口を固く閉ざし、ただゆっくりと背中をさすってくれている…。

ゆっくりと流れる時間。

時間の経過と共に私の鼓動はゆっくりと静かなものになる。

「…落ち着いたか?」

私の鼓動を聞いていたかの様に前田君は、私に笑顔を向け、そう聞いてきた。

前田君の笑顔は、片方の口角を上げ小さい笑窪を見せる笑い方をしていた。普段の前田君の笑顔とは違うこの笑顔。

そんな前田君の笑顔を見た私は、違う鼓動の高波を感じてしまう。

そんな自分に気づいた私は、急いで前田君の腕の中から離れ、かなり大袈裟な態度をとってしまった。

「もう大丈夫っ。…ありがとう」

最後のありがとうは消え入る様に吐き出してしまった私。

ちゃんと感謝をしたかったのに、こんな小さな声では前田君に届いていないかもしれない…。

「そうか。それと俺は、感謝をされる様な事なんてしてねぇから気にするなよ…お前を助けたのもただの気まぐれだったしな」

前田君は私を助けたのは気まぐれだと私に言った。やっぱり…。

「私を助けようとしてくれたんだね…」

これではっきりした。前田君は私の死ぬところを見たいと言っていたけど、やはり助けようとしてくれていたんだと…。