「すみません。診察してもらいたいんですが・・」
悲鳴は上がらない。上半身裸のまま、診察室に入ってきた若い女子を見た。向こうも反応を示さない。怪訝な目をしないところをみると、おれの事は、見えていないのだろう。少し、こっちが注目してみると見覚えがある。同じ学校のミキだった。
「いいよ」おじさんは言った。
もう一人、高校生が入ってきた。おれだった。
――この部屋におれが二人。おじさんが一人。ミキが一人。
あいつを捕まえないと。深い理由はないが、体が動いた。おれが追い、おれが逃げる。
突然、自分の後ろの視界がひらけた。まるで、自分の後ろに目ができたかのようだ。鏡に自分の姿が見えた。もう一人のおれがおれと重なった。
その瞬間、何かに体が引っ張られた。
そう、あのバスから落ちたときのように。
――ああ、やっと戻れる。
おれは、気づくと鏡の視点となっていた。鏡の中にいる、おれ。おれが、鏡になっている。ああ、周りからだけでなく、おれからでさえ見る事のできなくなってしまった、おれ。
だが、なぜか、こころは暗くなかった。やった。
やっと、みんながおれを見てくれる。自分を見てくれる人がいる。
そう、注目されたあの甲子園のマウンドの興奮がよみがえってきた。
悲鳴は上がらない。上半身裸のまま、診察室に入ってきた若い女子を見た。向こうも反応を示さない。怪訝な目をしないところをみると、おれの事は、見えていないのだろう。少し、こっちが注目してみると見覚えがある。同じ学校のミキだった。
「いいよ」おじさんは言った。
もう一人、高校生が入ってきた。おれだった。
――この部屋におれが二人。おじさんが一人。ミキが一人。
あいつを捕まえないと。深い理由はないが、体が動いた。おれが追い、おれが逃げる。
突然、自分の後ろの視界がひらけた。まるで、自分の後ろに目ができたかのようだ。鏡に自分の姿が見えた。もう一人のおれがおれと重なった。
その瞬間、何かに体が引っ張られた。
そう、あのバスから落ちたときのように。
――ああ、やっと戻れる。
おれは、気づくと鏡の視点となっていた。鏡の中にいる、おれ。おれが、鏡になっている。ああ、周りからだけでなく、おれからでさえ見る事のできなくなってしまった、おれ。
だが、なぜか、こころは暗くなかった。やった。
やっと、みんながおれを見てくれる。自分を見てくれる人がいる。
そう、注目されたあの甲子園のマウンドの興奮がよみがえってきた。

