しばらくして、玄関に一人の女性が現れた。診察室からは、待合室が見えるが、待合室からは診察室が見えない。これは、今まで一人で診察してきたおじさんが、常に院内に気配りをするのとプライバシーを両面から考えた策である。
「ちょっとそこで待っていてください」
おれは言った。
――あっ、聞こえるわけがないか。
診察室の女性は気づかない。おじさんは気づく。
「ここでいいですか」しかし、玄関の女性も気づいた。
おれの実体は戻ったのか?期待しておれの体を触る。いや、前からおれの体の実体はあったっけ。
「もう少々待っててください」
待合室に出て、おれは言った。
しかし、今度は、その女性は反応しなかった。その後、おじさんが最初の女性の診察を終え、その女性の診察も終わった。その間に、おれが打ったカルテは十二枚。少々腕が疲れた。目も疲れた。おれは住居(といってもおじさんの家だが)に戻ろうとしたが、おじさんに止められた。
「今日、二人目の診察で、おまえさんのことをしっとるか、と聞いたら、知っていると言っていた。なぜ、お前さんの声が聞けたか。顔を見せていなかったことに関係がありそうだ。なにせ、テレビを通してじゃ、お前さんの声を正確に覚えていないのが普通だろう」
「どういう事ですか」
「一般の人はお前さんの顔を知っているが、声は覚えていない。私は会ったことがないから、顔も声も知らなかった。だから、こうやってお前さんと話せる」
「でも、声も聞こえてないようでした。今までの人は」
「それは、どっかから人がいないのに声だけが聞こえたら変だろう」
それから、毎日、少しずつながら、現実というものを理解していった。
「ちょっとそこで待っていてください」
おれは言った。
――あっ、聞こえるわけがないか。
診察室の女性は気づかない。おじさんは気づく。
「ここでいいですか」しかし、玄関の女性も気づいた。
おれの実体は戻ったのか?期待しておれの体を触る。いや、前からおれの体の実体はあったっけ。
「もう少々待っててください」
待合室に出て、おれは言った。
しかし、今度は、その女性は反応しなかった。その後、おじさんが最初の女性の診察を終え、その女性の診察も終わった。その間に、おれが打ったカルテは十二枚。少々腕が疲れた。目も疲れた。おれは住居(といってもおじさんの家だが)に戻ろうとしたが、おじさんに止められた。
「今日、二人目の診察で、おまえさんのことをしっとるか、と聞いたら、知っていると言っていた。なぜ、お前さんの声が聞けたか。顔を見せていなかったことに関係がありそうだ。なにせ、テレビを通してじゃ、お前さんの声を正確に覚えていないのが普通だろう」
「どういう事ですか」
「一般の人はお前さんの顔を知っているが、声は覚えていない。私は会ったことがないから、顔も声も知らなかった。だから、こうやってお前さんと話せる」
「でも、声も聞こえてないようでした。今までの人は」
「それは、どっかから人がいないのに声だけが聞こえたら変だろう」
それから、毎日、少しずつながら、現実というものを理解していった。

