その翌日、その男性に連れられて、おれは産婦人科に行った。
「おじさん、ここで働いているんですか?」
「いやいや、自分のうちで精神科医をやっている身だよ。一人分じゃ食いぶちは困らない」
「じゃ、何しに、ここへ?」
「まぁ、見ておれ………ちょっと、看護婦さん、新生児を見せてもらえないかね。この若いのに見せたいのだ」
「えっ……。どなたにですか」
「いやいや、すまん、言い間違った。見たいのは私だ」
おじさんとおれは、新生児室に案内された。いや、案内されたのはおじさんだけか。
「ちょっと、触ってみなさい。この子供たちを」
「えっ……」
「いいから、やってみなさい」
おれは、赤ちゃんを触ってみた。確かに触感があった。抱いて持ち上げることもできる。
――やっぱり、おれは、いるんだ。
「うんうん、赤ちゃんはお前の顔を知らんから触れる」
赤ちゃんが、おれのポケットを触った。倫理のテキストが落ちる。
……ロックの重要な発言に「タブラ・ラサ」がある。これは人類は生まれたときは白紙であるという……
さて、おれにとっては、あかちゃんに認められてもどうにもならない。
その時、急に、手から赤ちゃんは落ち、ベットに戻った。
「すみません。赤ちゃんかわいかったでしょ」
看護婦さんが入ってきた。
「かわいかったですよ」
おれは、そう言ったが、その後すぐにハッとした。聞こえるわけがないじゃないか、と。予想どおり何の反応もしめさない。おじさんはこっちを一回向いたが、看護婦さんに向きなおし、
「かわいかったですよ……。失礼します」
おじさんに連れられ、おれも外にでた。
「おじさん、ここで働いているんですか?」
「いやいや、自分のうちで精神科医をやっている身だよ。一人分じゃ食いぶちは困らない」
「じゃ、何しに、ここへ?」
「まぁ、見ておれ………ちょっと、看護婦さん、新生児を見せてもらえないかね。この若いのに見せたいのだ」
「えっ……。どなたにですか」
「いやいや、すまん、言い間違った。見たいのは私だ」
おじさんとおれは、新生児室に案内された。いや、案内されたのはおじさんだけか。
「ちょっと、触ってみなさい。この子供たちを」
「えっ……」
「いいから、やってみなさい」
おれは、赤ちゃんを触ってみた。確かに触感があった。抱いて持ち上げることもできる。
――やっぱり、おれは、いるんだ。
「うんうん、赤ちゃんはお前の顔を知らんから触れる」
赤ちゃんが、おれのポケットを触った。倫理のテキストが落ちる。
……ロックの重要な発言に「タブラ・ラサ」がある。これは人類は生まれたときは白紙であるという……
さて、おれにとっては、あかちゃんに認められてもどうにもならない。
その時、急に、手から赤ちゃんは落ち、ベットに戻った。
「すみません。赤ちゃんかわいかったでしょ」
看護婦さんが入ってきた。
「かわいかったですよ」
おれは、そう言ったが、その後すぐにハッとした。聞こえるわけがないじゃないか、と。予想どおり何の反応もしめさない。おじさんはこっちを一回向いたが、看護婦さんに向きなおし、
「かわいかったですよ……。失礼します」
おじさんに連れられ、おれも外にでた。

