翌朝、おれは、学校に向かうことにした。いつものように商店街を歩く、この商店街の端に学校行きのバス停がある。電気屋のショーウインドーでは、新型プラズマテレビの展示がされている。確かに、ショーウインドーのガラスにはおれが映っているのに。
 おれは、いるのに、おれは、いない。
 しばし、おれは、そのショーウインドーを見つめていた。

『次のニュースです。また、ショッキングな事件がおきてしまいました。十六歳少年が母親を刺殺しました。では、少年の自宅前から中継です。』
『この少年は、野球部に所属し、この少年の通っていた高校は、名門の進学校であり、また、今年の甲子園の優勝校です。』
 その瞬間、俺は目を疑った。あいつの家だった、昨日喧嘩をしていたあの野球部の一年。
 確か、あいつの家、ひとつ前の通りをまがってすぐだったよな。おれは、踵を返し、今来た道を一丁戻り曲がる。まがった瞬間、細い小路にたくさんの報道車両、警察車両が止まっていた。
「ただいまから実況見分を行います。報道陣の方は下がっていてください」
 警察官が、拡声器を用いアナウンスをする。いつかのドラマでしか見たことのない光景が今、目の前で繰り広げられている。
 目の前の一台のワゴン車から、初老のやせ細った捜査員がおりてきた。その捜査員の腰縄の先に少年がいる。やせた捜査員と対比すると一層、あいつが大きく見える。つい、数週間前、俺と一緒にユニフォームを着て野球をしていたのに、今、おれは、すべての人の前から消え、あいつは、青い上下スウェットの囚人服に包まれている。
「おい、どうしたんだよ」俺が駆け寄っていく。
 だが、俺の手は、目の前の一年の腕を突き抜ける。
「どうして、親御さんをやってしまったんだ。甲子園にも行かせてもらったのも、親の支援があったんだろ」
 刑事らしき人が語りかけている。
「昨日、学校で、僕はけんかをしました。その結果、学校から部活に活動停止の処分がでたんです。部活に迷惑をかけたので、僕は、辞めたいといったのです。親に。それを、親が許してくれなかったんです。それで、……ごめん……ごめん。」
「そうか。じゃ、中に入ろうか」
 捜査員は、それ以上聞かず、あいつを連れて、家の中に入っていった。