「夏休みの残りでどっかに優勝旅行行こうや。一年、お前も行くだろ」
「いや、僕は、親が甲子園終わったらすぐ戻ってきて、新チームの始動まで予備校行けって言われているんで」
「ああ、そう。付き合い悪いな?」
ベンチ入りした唯一の一年に旅行を断られ、おれは少し不満だったが、甲子園優勝投手になったという快感に比べるとなんともなかった。
「おい、エース。ヒーローインタビューのご指名だ」
監督からそう声をかけられて、おれはグラウンドのお立ち台に上がる。
「すばらしいことを成し遂げました。甲子園決勝でノーヒットノーランです。高三で編入試験を受けてこの学校に入った、苦労も多かったでしょう」
雲ひとつない青空の下、甲子園のお立ち台でのインタビュー。今からそう、1週間前の話。
「君は指定校推薦が出来ないことに決まった」
「どうしてですか?」親とおれ二人が同時に言った。
「君の実績は評価している。だが、高校三年間常に本校の名誉に貢献した生徒を推薦するという基準に君は該当しない。君は本校にいたのは一年だけだ。それだけの話だ」
始業式の前日、おれは非情なこの通告を受けた。