「……」

「……」



しばしの沈黙。



「……何か言ったらどうです」

「……別に、言うことなんて無いけど」



死んだ魚の様な目を黄泉風に向け、軽く首を傾げる寒夜。
今までの憤りもどこかへ消えたようだ。



「あー、ババア!」



二人が和解したかに見えたその時、少し離れたところから元気な声がした。

寒夜と黄泉風が振り返ってみると、少々膨れ面の春とうんざりした様子の歪が歩いてきていた。



「終わったよ」

「……あぁ、見てた」

「歪、何か疲れてる?」

「……まあな」



歪が視線を動かす。
それに倣い、歪と同じ方向に視線を動かすとその先には春がいた。



「そういえば……誰?」



寒夜の言葉に気付いたのか、黄泉風と何やら言い争っていた春がこちらに向かってやってきた。



「初めまして、僕は虎杖春。この度はそこにおられる凩歪さんの弟子となりました!よろしくお願いします、寒空寒夜さん!」



よほど嬉しいのか、春は満面の笑みで寒夜に自己紹介をした。

寒夜の方は特に興味もないらしく、適当な相槌をうっていた。



「春っ!帰りますよ!」

「はあ?“殺し屋”でもなくなったババアが“情報屋”の僕に意見なんて出来ると――」

「いいから帰りますっ!」



春の抗議も虚しく、黄泉風は春の服の襟をつかみ、走り去って行った。

姿が完全に見えなくなる前に「ししょー!今度連絡させてくださいー!」と聞こえた気がした。



「……帰るか」

「お腹減った……」



二人の姿が見えなくなった頃、残った二人も家路についたのだった。