どくん…どくん。

胸が不吉に波打つ。


どくん、どくん。

それに構わずに少年は走る。


どくん、どくん。

だんだんと鼓動は早くなる。


どくんどくんどくん。

少年は家に着き、ドアを乱暴に開ける。


『父さんっ!母さんっ!』


ドアを開けると共に広がる鉄の臭い。

それも気にとめず、少年は足を進めた。


『父さんっ、母さ……』


リビングに来て、少年は足を止めた。


『あ…あ、あ……』


目の前には肉塊と化した父と母。
そして、もうひとつ。
二人を食ったと思われる
“陰”―シャドウ―


『うあぁあぁぁ!!!』


目の前の存在を確認できた頃には家を飛び出していた。


『あっ、あぁあ…』


声にならない叫びをあげながら、少年は走った。

走りながら、少年は感じていた。


(僕に力がなかったから。だから、父さんも、母さんも食われてしまった)


――力があれば。