最後にもう一度姿を見ようと由綺の方を振り返ったとき、不審な男の姿が目に入った。 ニット帽にサングラスを身につけている。 その男は着ていたジャンパーのポケットに右手を突っ込み、由綺に近づいていく。 まさか!? 嫌な考えが俺の頭をよぎった。 男はもう由綺の目の前まで来ている。 由綺はケータイ電話の操作に夢中で気づかない。 男がニヤリと笑った。 グサッ。 由綺は突然のことに驚いたような顔をして男を見上げた。 とっさに声が出ない。 男は無言で由綺の体からナイフを引き抜くと歩き去った。