シローがアクセルを戻し、軽くブレーキを踏んだその瞬間、前方に真っ白な閃光が地面から湧き出るように天上高くまで昇っていった。

「なに?」

多賀子が叫んだ。

「ダメだ!間に合わない!」

スピードを出していた車重のあるパジェロはその下り坂でスピードを殺すことができなかった。まっすぐにその光に突き進んでいった。

「シロー!」

再び多賀子は叫びながらシローの腕にしがみついた。

少し引いたアングルからその光景を見ると、まるで光に吸い込まれるようにパジェロは突き進んでいった。

「多賀子!つかまってろ」

シローはその光をつっきって行く覚悟でブレーキを踏み続けた。まるでスローモーションのような時間の流れを感じたが、逆らうことのできない物理的現象に、ただ多賀子を守ることだけを考えていた。

一瞬の出来事だった。その光に包まれた瞬間、パジェロの動きが止まった。一瞬で止まったにもかかわらず、車体は柔らかく包み込まれるように動きを止めた。地面からの光はさらに強くなり次第にパジェロそのものも発光を始めた。周囲を照らすにとどまらず、その光は市内中心部からも確認できるほどの明るさになった。既にまぶしさでパジェロの形を確認できなかった。

その光が徐々に弱まり、地面に吸い込まれるように光が収縮したあと、周囲は今までと何も変わらず、何事もなかったかのように赤い月の光に照らされていた。すぐそばを走る国道7号にも普段と変わらない深夜便のトラックたちが時折クラクションを鳴らしながら走り去っていった。

そこにパジェロの姿はなく、急に灯りのつき始めた民家の窓に、中国大陸での巨大群発地震のニュースが現実味を帯びてきたことだけがうかがい知れた。