「なんか、やばくね?」

「ラジオつけていて正解!とにかくこの場所はまずいわ。早く車を出して!」

「了解!」

シローはパジェロを急発進させた。ラジオからは相変わらず騒々しい雰囲気の伝わるアナウンサーの声が不安を煽っていた。

「あの赤い月・・・」

「ああ、バリバリ関係あるね」

「まず、津波ってものすごい速さなんでしょ。急いで」

海岸線の道路から一刻も早く抜け出すために県立大学キャンパス方面に左折した。ふと、火力発電所が見えた。

「マジで津波が来たらやばいな」

「なんだか実感沸かないわ。だって秋田で揺れがあったワケじゃないから。でもなんだか怖い・・・」

確かに実感など湧くはずもない。ただの今まで日常の中で何かが起こる何の前触れもなく逢瀬に浸っていたのだから。明日の朝食を何にしようか・・・仕事の段取りは、来客予定は、などなどが頭の中をよぎりながら彼女との時間を楽しんでいたのだから。

「大丈夫、ここを脱出さえすれば多賀子のマンションも俺の団地もそういう意味じゃあかなり内陸にあるから」

シローはそう言いながら実感の湧かないままパジェロを猛スピードで走らせた。県立大学をすぎて街に降りるその小さな坂道も同じスピードで疾走しようとしていた。

「もう、スピード出し過ぎ。もうここまで来たら大丈夫だから」

「あ、そっか。そうだな」