いつもよりも冷え込んだ寒さで目を覚ます。左手の腕時計に目をやると、午前八時過ぎ。

あまりの部屋の寒さにすぐさま布団から出した左腕を戻した。

「寒っ…」

 もぞもぞと布団に顔半分まで潜り込む。

今日は世間一般ではクリスマスイブと呼ばれる日。

しかし、本屋に勤めている武志には休みなんてものはない。

今日の出勤時間は昼の十二時。せめて十時頃までは夢の中に居たかったのだが、この寒さにぱっちりと目も冴えてしまい、二度寝は出来そうにない。

 眉間にしわを寄せながら布団から出て、ストーブを点火する。

部屋が暖まるまでは布団に潜っていようと思い、戻りがてらカーテンを捲って窓の外を見ると一面真っ白だった。


「うわ。車の雪下ろししないとな…」


 呟きながら布団に戻る。

武志の住んでいるワンルームのマンションはまだ築五年程で、ここまで部屋が冷えることは滅多に無いのだが、相当な積雪量に一階の部屋ということもあり、珍しく冷え込んだようだ。

『たまには早く起きるか…』

 少し暖まった部屋の中を見渡すと、食べ終わったお菓子の袋や脱ぎ捨てた衣類などが散乱している。

掃除という言葉が一瞬脳裏に浮かんだが、同時に体がやる気の無さを訴えた。

『年末だしなぁ…。大掃除っぽいものでもしておかないとな…』

 気だるそうに動き出してとりあえずゴミをゴミ箱に放り込むが、すぐさま小さなゴミ箱は一杯になり、当たり前の様に部屋のゴミはまだまだ散乱している。

仕方なく市区町村指定のゴミ袋を取り出し、ゴミ箱の中のゴミ諸とも突っ込んだ。

 ゴミを片付けるだけでこんなにも部屋が広く見えるものかと、驚きと共に自分のだらしなさに呆れてくる。

同じ様に、部屋に散らばっている衣服や下着類を洗濯機に放り込む。

 合間に煙草を吸ったり、ダラダラと布団に寝転がったりしていたため、たかだかそれだけの作業に一時間以上使ってしまった。

『十時か…』

 シャワーに入り、顔を洗いフリースのパジャマから私服へと着替えた。

車の雪下ろしの時間を入れるとそろそろ家を出る時間だ。左手首の時計の針が十一時を過ぎたことを知らせてくれている。

 外に出ると、車の通り道だけは軽く除雪してあった。

決して広いとは言えない駐車場だが、有り難いことである。

 愛車である軽自動車のエンジンを掛け、寒い中冬用ジャケット姿で体を丸めながら車の雪下ろしを始めた。

『この様子だと、今日はホワイトクリスマスってやつになるのかな…』

 彼女の居ない彼にとっては、大して興味のない事だったが、今更今日のために誰かを誘おうとも思わない。

 車の雪下ろしも終わりかけた頃、駐車場の一角に不思議な空間を見つける。

特に除雪もされていない場所のようだが、その一部分だけ雪が無かった。

 雪下ろしを終えた後に何気なく覗きに行くと、十五センチくらいだろうか、整った雪だるまが立っている。

近所の子供が作ったのか、バランスの良いその雪だるまには、ご丁寧に大きな黒いビーズが埋め込まれていて、しっかりと武志を見つめている。

「でかい目だなぁ。人間だったら、くりんとした目で可愛いんだろうな」

 雪だるまの頭をツンツンとつついて、勝手に『弥生』と名前まで付けてみた。

ロマンチックな男は怪訝に思われるのかもしれないが、甘党な男も居れば、甘えん坊な男だって居る。

雑貨やアンティークな小物が好きな男が居たっていいと思っている。実際そうゆう男は結構居るはずだ。

 腕時計をみるともうすぐ十一時半になろうとしている。

最後に『弥生』の頭を一度小突いてから職場へ向かった。





 クリスマスのプレゼントに本を送る人は少なくない。

孫に絵本を買ってあげる祖父母の姿や、言葉の一文一文に重みのある詩集や一言集を友達に送る人など、沢山の客で賑わっていた。

 制服に着替えてフロアに出るとすぐに、まだ新米のアルバイト君が必死な顔で、『本の包装とか、どうすればいいですか?』と走り寄ってきた。

それを皮切りに、次々と包装の依頼が来る。

 レジに並んでくる人も途絶えず、予約していた本を取りに来たと声を掛けられ、なかなか忙しいフロアを走り回っていた。

「この本、包装してもらえますか?」
 声を掛けてきた客の方を向くと、一冊の絵本を持った年配の女性が居た。

「宜しいですよ。では先にお会計をお願いします」

 そう言って預かった絵本の表紙には、質素な雪だるまが一体、描かれていた。

『そう言えば、朝見た雪だるまはまだ健在かな?』

 そんなことを考えながらチラリと中身を覗いてみた。
 一人ぼっちの雪だるまが、一人の小さな女の子と出会い、楽しい時間を過ごした後に、訪れる春と共に姿を消してしまう。

それでも、沢山の幸せを貰い、贈り、次の冬にまた会おうね、と約束のキスを交わして、母親の元に帰る女の子。

 雪だるまと女の子の温もりのある、優しい物語だ。

最後のページには、再開した二人の様子が描かれている。

 何歳くらいの子供に贈るのだろうか。

丁寧に包装して、メリークリスマスと書かれたシールをリボンと共に貼り付けた。

満足そうに笑顔で店を後にしたその年配の方を見ていると、人と触れ合う仕事はやっぱり幸せな仕事だなと思っていた。

 朝のこともあったからか、雪だるまの絵本が気になって、休憩中にテナントとして隣にあった雑貨屋を覗き、木製の小さな雪だるまを一つ買った。

女の子が喜ぶような可愛らしい物にも見えるが、木製のため、男の部屋にあっても違和感の感じない雪だるまだった。

 質素に目と鼻しか付いて無く、鼻はピノキオのように細く少し長めの物だ。

塗装をしていないこの雪だるまは木の温もりをそのまま残していて、先程の絵本に出てきた雪だるまと重なる。

 衝動買いにも近いその十センチほどの雪だるまを持って、閉店作業を終えた武志はいつの間にか降り出していた牡丹雪の中、帰路に付いた。