妄想小説(短編)

そのとき、もはや僕に発することができ
る言葉はなかった。

これまで感じたことのないほどの「感動」
の波が僕を襲ったので、

僕は荒い息で急いで肺に空気を送り込み
ながら、

「がんばれば夢は必ず実現する」という、
多くの先人たちの言葉がウソではなかっ
たことを、そのとき身をもって知って
いるところだった。

鈴木杏樹さんはまたアニメスタッフと
話をしており、

僕はそれをもうほとんど働いていない
頭脳でぼんやり聞いていたが、

僕の左側に座っていた30代の女性アニ
メスタッフが、僕の顔を優しそうな目で
見ているのに気づき、

おっと、この交渉の山は越えたが、
何度もない鈴木杏樹さんとの対面の機会、
ぼんやり過ごして無駄にするわけには
いかない、と思い直し、

深い息をひとつ吐き出して、再び意識を
はっきりさせようと試みた。