妄想小説(短編)

僕としては「ここまで頼んでいいもの
か」と恐る恐る言ってみたことだったが、

大人気女優である鈴木杏樹さんとしては、
そのくらいはいつものことなのだろう。

笑顔を全く崩さず「いいですよ」と言っ
て、差し出した僕の右手を握ってくだ
さった。

僕はジーンと胸を熱くして満足のため息
をついたが、さらに持参したデジカメを
女性アニメスタッフに手渡し、

杏樹さんの側に回りこんで、にっこり
笑って一緒に記念撮影に写っていただく
ことまでしていただいた。

そしてサインである。僕は先ほど杏樹
さんに渡した色紙と同じ、ピンク色がか
った色紙をもうひとつ持ってきていた
ので、

こころなし震える手で鈴木杏樹さんに
それを渡したところ、尊敬申し上げる
その方の御手直々に、サラサラと

「鈴木杏樹 シロネコさまへ」

と書いていただけたものだから、もう
地球は大爆発、太陽系では惑星直列・
グランドクロスが起こって、

宇宙のかなたで今日という素晴らしい
日を祝って新たな銀河が100万個
ぐらい誕生したのであった。