妄想小説(短編)

「私にくださるつもりで、去年から
 サインを用意してくださっていたん
 ですか、ありがとうございます!」

ホッ。さすがは神の化身である鈴木杏樹
さん、僕が仕掛けを引っ掛けたとか引っ
掛けられたというような小さなことは
まるでスルーで、

僕が前々からサイン色紙を用意していた、
という行為と思いの方を評価してくれた
らしい。

杏樹さんは礼儀正しく両手で色紙を
受け取ってくださり、

僕はこうしてまた、以前から自分の脳内
にあった「イメージ」が三次元世界で
現実化する体験をして幸福感に包まれた
が、

図に乗ってきたというべきか、予定
通りというべきか、

この際、さらに別の希望も叶えようと
急いで動いた。

僕は自分が目を輝かせ頬を紅潮させて
いるのを感じながら、受け取ったサイン
をじっくり見てくださっている杏樹さん
に向かって、たたみかけるようにこう
切り出す。

「あの~、よろしければ、握手とサイン
 と記念写真を頂きたいのですが・・」

ああ、人の欲望とは限りがない(笑)