妄想小説(短編)

そう言いながら、僕はブリーフケースを
ひざの上に引っ張り上げ、

中からピンク色がかった白い色紙を一枚
取り出した。

今度は何だろう? と思って見ている
ような、左右のアニメスタッフたちの
視線を意識して恥ずかしく思いながら、

僕はまた杏樹さんの目をしっかり見つめ
て、ドキドキしながら色紙の表側を彼女
に向けて示す。

「あっ、シロネコさんのサインですね。
 私の名前が書いてますね、これをいた
 だいてよろしいんでしょうか?」

「はい、もちろんです! これを鈴木
 杏樹さんに受け取っていただければ
 と思って、だいぶ前に書いていたん
 ですよ」 

だいぶ前? なるほど、その色紙には
「シロネコ」という僕のペンネームと、
「鈴木杏樹さん江」という文字が黒マジ
ックで大きく書かれていたが、

その下に書かれてある日付けは今日の
ものではなくて、2010年の4月に
なっているではないか!