ブラシで髪を整えながら、あ、と思いつく。
「お父さんでもお母さんでもないなら」
昨夜、部屋に入ってきた市川しか、いない。
チャラチャラしてて無愛想なヤツなのに、根は良い奴なのかもしれないと思った。
*8*
その日、朝のショートが終わっても市川は来なかった。
1時間目の途中に来るのではないかという期待も外れ、昼間になっても姿を見せず、結局、今日は学校には現れなかった。
欠席の理由なんて考えるまでもない。
また仕事に走っているのだろう。
がっくり肩を落としながら、例の絵本を返すために図書館へ足を運んだ。
カウンターに本を出して、返却が済んだ瞬間、気が抜けたような感じになる。
うんと背伸びして、何気なく図書館の中を歩いた。
すると、奥のテーブルに顔を伏せて眠る市川を見つけた。
一目で市川だと気付くには簡単だった。
制服よりも何よりも目立つ消し炭色の髪の毛だ。
あんな髪の高校生、私は市川しか知らない。
「市川!」と呼び掛けたいが図書館では大きな声は出せないので、静かに歩み寄ってみることにした。
傍に立ち、彼を見下ろした。
組んだ腕の上に横向きに眠っている。
ほんの少し開いた唇や心地よさそうな寝息は、まるであどけない子供のよう。
でも髪と同じ色の睫毛は長く生え揃っていて、緩やかな線を描いた眉も羨ましいくらいキレイで。
油断していたらドキドキしてしまう。
私は頭を左右に振って余計な考えを追い出してから、市川の肩を優しく叩いた。
「市川、市川」
そっと睫毛が持ち上がって、ぼんやりした瞳が私を見つめてくる。
「こんなトコで何してたの?」
市川は頭を掻きながらアクビをした後、ダルそうに答えた。
「昨日寝そびれたから、午後から学校行くつもりだったんだけど……え!? 今何時!?」


