蜘蛛ノ糸


ベッドから降りた拍子に何かが落ちる音がした。

足元には、例の絵本が落ちていた。

拾い上げて中を見てみたが、もう魄の姿はどこにもない。

市川によって、ちゃんと解放されたらしい。

それに、今日はすごく体が軽い。

今まで傷ついてばかりだったからな……と、腕の包帯を外して驚いた。


「消えてるっ!?」


傷痕さえ残らずキレイに消えていた。

鏡で首の痣も探したが、それもなかった。

足も全く痛くない。


魄だけでなく、私も解放されたみたいだ。


「やっほーい!」


早く学校に行って市川に知らせたい。

市川にたくさん「ありがとう」を言いたい。

そして市川に会ったら、確かめたいことがある。


図書館の帰りに、左手の傷痕を見せながら言ったこと……



『眼だよ。これが開いて眼が出たんだ──』



あの時は彼が冗談だと言うから嘘なのだと思っていたけれど……だけど、私は見てしまった。

昨夜、魄に奪われた私の魂の一部を取り出す時、手の平の傷口を割って現れた深紅の眼を──。


あれは一体……


「……っと、急いで準備しなきゃ!」


慌てて階段を下り、テーブルに朝食を並べている母からトーストをさらって洗面所へ向かう。


「ちょっと、アケル! 座って食べなさい!」

「急いでんの! ……あ、そうだお母さん、昨日はありがとね」

「昨日? 何のこと?」

「夜中に、タオルケットかけてくれたでしょ? うっかり眠っちゃんたんだよね」

「お母さんじゃないわよ。お父さんじゃない?」


と言いながら母は、ソファーに座って新聞を読む父に話を振る。


「俺じゃないぞ。アケルは変なところで神経が良いからなあ、寝ぼけて自分でかけたんじゃないのか?」

「そうよねぇ。とにかく、寝るならちゃんと寝なさいよ、風邪引くわよ」

「はーい……」


トーストを食いちぎって回れ右をする。