蜘蛛ノ糸


「日渡の魂の一部だ。こいつを盗まれたせいで魄が増強したんだ」


言いながら、フリスビーでも投げるかのように私に飛ばしてきた。

飛んできた光は、何の衝撃もなく心臓の辺りに溶け込んで消えた。


市川は魄にそっと告げる。


「お遊びはこれで終わりだ。お前はここにいちゃいけないんだ。分かってるだろ?」


気のせいだろうか……魄の口元が下がって、悲しげな顔に見える。


どうしてあんな顔をするのだろう?

私に散々悪さをしたくせに……



『狭し人は消滅した後、結晶みたいな残骸が残ることがあるんだ』



ふと、市川の言葉が蘇る。



『1つだけじゃ意思は持たないけど、いろんな人の結晶が集まって魄(ハク)になる』



──そうか。


最初から悪さをしたかった訳じゃないのかもしれない。

一人ぼっちで淋しくて淋しくて、どうにもならなくて、だから誰かの魂に惹かれたのかもしれない。

誰かと一緒にいたかったのかもしれない──


そう思ったら、恐怖や腹立たしさの気持ちが、ほんの少し和らいだ。

ほんの少し、だけれど。


魄を見つめていると、魄は私に手を伸ばしてきた。

何と言っているのか分からないけれど、何かを伝えようと口を動かしている。


「『くるしめて、ごめん』……だってさ」


代弁したのは市川だ。

ひょっとしたら市川には、魄の気持ちも解る能力があるのかもしれない。


「私は大丈夫だから」


そう言うと、魄はホッとしたように手を下ろし、市川に向き直った。

市川も魄を見た。