身動きが取れない私の目に向かって、鋭く尖った爪が近づいてくる。
(抉り取るつもりなんだ……!)
「や、だ──やめてっ!!」
腕を掴んで押し返しても、子供の姿からは想像もできない力が加わってくる。
焦点が合わなくなるほど眼球に近づいて──
「いやっ!! 助けて──!!!!」
目を閉じて願った名前は──
(市川──……!!)
その時、風を切る音がして、押さえられていた額が楽になった。
目を開ければ、男の子の腕を掴んで抑止している市川が見えた。
「市川……!」
「無事みたいだな、日渡。下がってろ」
私は大きく頷く。
市川が来てくれた、私を助けに来てくれた……
それが嬉しくて安心したら、少し涙が出そうになった。
「さーて、どうしよっかな」
市川の東城で、男の子の姿をした魄が、請うような眼差しを向けている。
「お兄さん、やめてよ……ぼく淋しいだけなんだよ」
市川の視線が再び魄を捉える。
「芝居はやめろよ、本当の姿に戻ってもらうぞ」
市川が左手の平を男の子の額に向けた時だった。
市川の瞳が紅蓮の色を宿した瞬間、
あの『カッターの傷痕』がギチギチと開き、血と共に深紅の眼が現れたのだ。
その“眼”が男の子の目と合ったとき、煌めく光の粒が男の子の額から市川の手の方へと吸い出されていくのが見えた。
「うっ、ぅっ、ううぁああぁぁ!!!!」
市川の手がそれを完全に吸い上げると、不気味な悲鳴を上げて、男の子の姿は漆黒のモヤモヤした人型(ヒトガタ)に変わっていった。
ちょうど、非常口のマークのような。
目や口を思わせる丸い穴が開いているのみで、表情はほとんどなく、声も上げなくなった。
市川の手には、金色の光が握られていた。


