(初日から遅刻した上に夏休みボケまでしていたら、親友のマキとハルカにも笑われそう!)


そんな事を思い苦笑いしながら2階へ向かった。


『2-B』


クラスを覗き込んでみて、マキとハルカの姿を発見すると、ようやくホッとした。

やっぱり夏休みボケだったらしい……とても情けない事だけれど……。


クラスの生徒たちはみんな、大学進学に向けて真剣そのもの。
カツカツ板書していく先生の、こもった声が聞こえてくる。


私は唇を噛みしめ、一人で頷いた。


(ちゃんと叱られよう。邪魔しちゃったんだし。マキとハルカなら、いつもみたいに笑ってくれるよね)


私は思い切って中に入って


「おっ、遅れてすすすみませんっ!」


と頭を下げた。


しかし──


「鈴木、次の文読め」と言った先生。
「はい」と返事をした鈴木さん。


他の生徒たちも教科書に目を落とす。



まるで私は──



(無視されてる……?)



テストの成績がいつも悪いから?
みんなの邪魔をしたから?
補習をサボったから…?



──その時。



ガラガラッと生徒が入ってきた。


「おはよーございまーす。遅刻しましたあ」


派手な音に気づいた全員が私の後ろの男子生徒を見る。
私も当然振り返った。


彼は悪びれもせずニッコリと笑い、フワッとした消し炭色の髪を掻いている。

耳には小さなピアスをしていて、目は……カラーコンタクトでも入れているのだろうか……髪と同じ色をしていた。

一見して、チャラチャラした不真面目な生徒、だと思った。


「ったく……。おしゃれに時間かけたからだろうが。もういい、さっさと席につけ」


先生は彼を髪の先から爪先まで見つめ、チョークを持った手で、一番後ろの窓際の席を差した。


私同様、スリッパを履いていた彼は、大きなアクビをしながら、ゆっくり窓際の席に着いた。