「なんだよ?」
「助けて、お願い!」
私は、ぱんっ、と両手を合わせて自分の額にくっつけた。
「実は、あの絵本……魄が住みついてる絵本、借りてたの。魄を何とかしてあげたくて……でも、あたしを本に閉じ込めようとしてて……とにかく眠ったら殺されちゃう……!」
市川は片目を眇(すが)めて私を見た。
「やっぱりな。なんかおかしいと思ってたんだ。ったく、余計なことしやがって」
ごめん、と呟いて市川の様子を覗うと、いつもの無表情で頭を掻きながら何かを考えていた。
それから数秒後、吹っ切れたように「よし」と声を発する。
「忠告を無視した報いだと思って放っておきたいところだけど、死んだら面倒くせーから助けてやるよ。
その代わり、もう二度と面倒を持ちこむんじゃねーぞ」
無言で何度も頷いたら、また溜め息をつかれた。
だがそれ以上何も言わずに踵を返してしまう。
「ちょ、ちょっと待った!!」
去りかけた市川のカバンを引っ掴むと、彼はたたらを踏んで止まった。
「なんだよ!?」
「あの絵本返せばいい!?」
「返しても意味ない。日渡の魂の一部が本の中に縛られてる。本の中の魄を解放するまで束縛は終わらない」
「じゃあ、あたしは何すればいいの?」
「何もしなくていい」
「……え!?」
また去りかけた市川は、2、3歩過ぎたところで「あ」と私の方に首をひねった。
「そうだ、1つだけ。部屋の窓の鍵、開けといて」
「侵入するつもり!?」
「嫌なら自分の墓でも掘っとけよ」
「嫌です分かりましたごめんなさい言うとおりにしますから助けてください!!」
それを聞くと鼻を鳴らして去っていった。
……本当に助ける気があるんだろうか……。


