呼吸の乱れも収まらないうちに浴槽を出ると、鏡に映った自分の姿に血の気が引いた。
首には、まるで何者かに絞められたように手の形の痣が出来ていたのだった。
着替えて台所に行き、カップに真っ黒なコーヒーを注ぎこんだ。
私の奇行に気付いた母が声をかける。
「何してるの? そんな格好で」
母はじっと私の首を見た。
痣を隠すために着けたネックウォーマーを気にしているらしい。
夏だし、これはおかしいと思うのは当然だ。
「さ、寒くて……えっと……風邪引いたみたいなんだよね」
「大丈夫か、アケル?」
ソファーでくつろいでいた父までも私を振りかえる。
「大丈夫だって! あたし、もう寝るから。おやすみ」
平静を保って階段を上っていく。
でも、寝るというのは口だけだ。
眠ったら、今度は何があるか分からない。
テレビを付けて、ベッドの上で膝を抱きしめた。
けれども、気付いたら不思議の森の中に立っていた。
また上腕が熱を帯びてきて、後ろを向くと男の子が立っている。
男の子は寂しそうに笑って言う。
「やっと来てくれたんだね、お姉さん。ぼく、一人で寂しかったんだよ」
そんな姿や表情をしたって、もう騙されるわけがない。
コイツは私を──
「ここに閉じ込めるつもりなんでしょ?」
男の子の顔から、表情が消えた。
徐々に痛くなる腕を押さえて私は続ける。
「眠らせて、傷つけて、動けなくして……狭し人にして、この本の中に閉じ込めるつもりだったんでしょ?」
男の子は目を剥いた。
「お姉さんは、ぼくと一緒にいてくれないの?」
「一緒にいることはできないよ、住んでる世界が違うんだもん。でも、助けてあげたい」
「助ける?」
「行くところが分からなくて、迷ってたんだよね? だから、ここから解放してあげる」
「いやだ……、そんなのいらない! ぼくここにいたい!!」
急に怒り出した男の子が、私の腕を掴んだ。


