市川は霊が見えるようになった時、どんな気持ちだったのだろう。
やっぱり、怖かったのだろうか?
だからいつも、ふざけたりして気を紛らわせようとしているのだろうか……?
誰にも気付かれないくらい小さな溜め息をついた。
私は市川みたいに強くなれそうもない。
今でさえ、霊に翻弄されて疲れ切ってしまっている。
私なんかが一人で魄を開放してやろうだなんて、最初から無理に決まっていたのだ。
(──やっぱり、絵本返そう)
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「ただいまー……」
帰宅するとリビングにカバンを捨てて、真っ直ぐ風呂場に向かった。
「お帰り。夕飯できてるわよー」
「いらなーい……」
膝の傷に何とか防水処理をして、さっさと風呂に浸かる。
入浴剤入りの真っ白な水面に視線を落とした。
そうすると一日の疲れがどっと押し寄せて、また眠気が襲ってくる。
頭が傾きかけた瞬間、図書室で見た魄の恐ろしい形相が脳裏をよぎって、私は首を左右に振った。
寝ちゃいけない。
今寝たら、大変なことになるって分かっている。
でも、意思とは真逆に首が前方に傾く。
ついに目を閉じてしまうと、バシャンと音を立てて頭が水面に落ちた。
驚いて顔を上げようとするものの、頭が上がらない。
首に何かが引っ掛かっている感覚があって、頭を上げようとしても水中に引き込まれてしまう。
パニックに陥ってもがくほど、口から空気が漏れて苦しくなっていく。
息が──でき、ない──
もう駄目だと思った時、すっと自由になって頭が上がった。
喉か裂けそうなくらい荒々しく空気を吸い込んで、何度も肩で息をした。


