来られなくなったのかな、と思っていたら、見計らったように遅刻してきた。
1時間目が始まって5分過ぎた頃だ。
「はよーす」
だなんて、やる気のない語調で。
着崩した制服にも、スリッパみたいな靴の履き方にも、ユルい性格が滲み出ている。
「遅いぞ、市川ぁ」
「だって彼女が帰してくれなかったんスよねー」
(どういう言い訳よ!?)
と思ったのは私と先生だけらしく、生徒たちは口笛を鳴らしたり手を叩いたりして同調する。
先生は咳払いして、「もう良いからさっさと座れ」といなした。
席に向かう途中に男子生徒たちと次々ハイタッチをしていき、ようやく着席する。
「……おはよ」
あんな言い訳を聞いた後では、まともに顔も見れなくて
、そっけない挨拶になってしまった。
私の心中を知るよしもない市川は、「はよー」と返して教科書などの準備をする。
そんな市川の横顔を眺めて、思う。
よく目を凝らしてみれば、整った顔だ。
『彼女が帰してくれなくて』っていう言い訳も、あながち嘘じゃなかったりして……。
彼女……いるのかな……
もしそうなら……やだな……
「──なあ」
不意に市川と目が合った。
「その顔」
次に足まで見下ろして、膝に巻かれた包帯を指差した。
「それ、どうしたんだ?」
夢の中で怪我した、だなんて絶対に信じてもらえない。
まして絵本に住みついた魄が現れたなんて口が裂けても言えなかった。
『魄を解放してやろうだなんて、変なこと考えんなよ』
そう釘を打たれたのに、言うことを聞かず本を持ち帰ったのは私。
自分でまいた種は自分でなんとかしなくちゃ。
「……昨日、階段から落ちた」
「また狭し人に戻りたいのか?」
「そんな訳ないでしょ! ほっといてよ」


