蜘蛛ノ糸


振り返ると、あの男の子が立っていた。

幼稚園児の姿をした魄だ。


「怪我してるね、痛い?」

「平気平気! ていうか、ここどこよ?」

「不思議の森だよ」

「不思議の森って、あの『キッパ』の?」


男の子は頷いた。


「じゃあ、“いたずら妖精”もいるってこと?」

「うん。でも、ここにはまだ出てこない。もっと先だよ!」


私の手をグイグイ引っ張っていく。

森の奥へと──


「あ、ちょっと待って──!!」


突然、目の前が真っ白になって──







──気が付くとそこは私の部屋で、私はベッドの上にいた。

窓から差し込む朝日が、顔を照らしている。


(あれは、夢……?)


重い体を起こしてベッドから降りようとした時、ズキ、と膝に痛みが走る。


裾を上げて見れば、なんと出血しているではないか。


「うっそ……」


とっさに大量のティッシュを引き抜いて傷口を押さえた。


夢と同じ場所だ。

その上、傷の形や深さも同じ……

ということは……

足を引きずりながら机に置いてある鏡を覗きに行って、唖然とした。


やっぱり頬にもすり傷があった。


「夢じゃ、ない……!!」


「アケルー! 起きなさーい!!」と階下から響く母の声。

返事をして、身仕度を始めた。





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教室に着いても、市川はいなかった。

私の隣──窓際の席は空席のまま。