蜘蛛ノ糸


信号が青に変わって、自転車が動きだす。


思考が追い付いていかず絶句していると、市川の背中が震えていることに気付いた。

どうしたのかと心配しかけた時、ちょっとだけ私を振り返って、


「──ぷッ」


と吹き出されて。

堪え切れなくなったみたいに笑われた。


「ぶははっ! 本気にしてやんの!」

「はあ!? 嘘だったの!?」

「カッターで切った傷痕」

「もー最悪!! この野郎っ!!」


すいすい自転車をこぐ市川の背中をバシバシ叩いた。


「痛っ! いてぇよ!」

「本気で心配するところだったじゃん、バカ‼」

「悪かったって!」


ますます大爆笑していた。

一喜一憂する私の気も知らないで、ダメな奴だ!
……なんて思いながらも、あんなに楽しそうに笑ってくれるのなら、何度からかわれても良いとさえ思ってしまう私も、相当ダメな奴なのかもしれない。





*3*



家に着いた私は真っ先に風呂に浸かって、夕飯も食べずに部屋へ向かった。


疲れた……
本の読みすぎでクタクタだ……


電気も点けず、ベッドに倒れ込んで目を閉じる。





あっという間に朝が来て目覚めると、アクビ混じりにカバンを担いで玄関のドアを開けた。


「いってらっしゃい」

「いってきまーす」


いつもの光景だ。


だけど──


「……あれ?」


家の外は、森。

森の中に我が家が1件あるのみ。


「えっ、うそっ、何で!?」


驚きながらも、森の奥へと進んでいく。


見上げても、背の高い木々に囲まれていて空は見えない。


「うわっ!」


どてっ。


盛り上がった木の根に足をとられて転んだ。


膝がざっくり切れてて、血が流れている。

頬もちょっと擦り剥いた。


「もう、どうなってんの……?」


途方に暮れていると、背後で声がした。


「お姉さん、大丈夫?」