蜘蛛ノ糸


「何してたんだよ? ……まさか、あの本借りた訳じゃないだろうな?」

「ち、違うもん!」

「……ならいいけど。『魄を解放してやろう』だなんて、変なこと考えんなよ」


ケータイをポケットにしまい、


「帰るだろ? 乗れよ」


と自転車の後ろを親指で指す。


後ろにまたがって市川の背中にしがみつくなり、自転車はゆっくり発進した。


夕焼けの彼方から、カラスが何羽も飛んでいくのを見つめて私は尋ねた。


「明日は、ホントに学校来るんだよね?」

「……たぶん」

「来れないかもしれないってこと?」

「だから、いろいろあんだって」

「例の“仕事”ってやつで忙しいんだ?」

「まあな」

「どうして狭し人を助けられるようになったの?」


市川は頭をかき乱した。


「説明したところで理解できるかどうか分かんねーし、今度あらためて話すから──」


私はわざと体重を横に傾ける。

狙いどおり、市川が足をついて、自転車を止めた。


「危ねっ……何すんだよ!」

「ちゃんと今話してよ、気になるでしょ」


横断歩道の青信号が点滅し、赤に変わる。

市川は大きなため息をついたのち、観念したのか、不機嫌そうに話しだした。