蜘蛛ノ糸


パステルカラーのカーペットが敷かれた幼児コーナーに靴を脱いであがり、丸テーブルに本を置いた。

夕方だったからだろうか。

このコーナーには私たちの他に誰もいなくなっていて、周りを気にせず読み聞かせてあげられた。


「──『キッパはママの約束を忘れて、1人で森の奥に入ってしまったのです』──……」



『イタズラをする悪い妖精がいるから、1人で行ってはいけませんよ』という忠告を無視したキッパくん。

彼が森の中をさまよい、淋しさや空腹に泣いているところにイタズラ妖精がやってきて、優しい言葉でキッパをそそのかす。

友達が欲しかった妖精はキッパを森に閉じ込めるつもりだったが、やがて母親が探しに来てくれ、キッパは無事に家に帰ることができた。


『あなたが無事でよかったわ』

『ぼく、もう約束を破らないよ』


キッパは時々、妖精が1人で淋しくないか心配になりましたが、もう1人で森へいったりしませんでした。


──というお話だ。


「キミもママと約束してたんじゃない? 『迷子になるから手放しちゃだめだよ』とか」


男の子はまた俯いた。


「怒ってるんじゃないんだよ? 心配してるだけ」


男の子はニッコリ笑うと、再び最初のページを開いて渡してくる。