夏、僕らは変わります。

「引退するともうあとは1つしかねーよな」
僕の机に勝手に座り、そう言うのは河合元希(カワイモトキ)。

彼は柔道部でよく分からないがかなりの腕前を持つらしい。
小柄な体格でちょっと不利ではないかと思うのだが、彼に直接そう訊いた時、柔道には体重別階級があることを初めて知った。

「受験……だよな」
智也が元希に続くようにして言う。

「受験とか言うなよ。テンション下がるんスけど」
僕が頭を抱えて言う。
「だよなー。もう本当に憂鬱だよ」
智也がそう言っても噓にしか聞こえない。

「お前は頭いいからどこの高校でも余裕じゃんか」
智也に元希が嫌みたらしく言う。
「そんなことねーって!」
なんて智也は言うがその言葉がさらに持ちあます余裕をさらけ出していた。


たしかに智也と元希は種類が違う。
いや、結局は努力家という面では同じなのかもしれないが。

智也はやればやっただけ伸びる。だから勉強が面白い。

そりゃなんだってやればやっただけ結果が出るのなら努力を惜しむ必要もないだろう。
彼は野球部なのだがそこでもエースを務めながら、勉強の面でも学年1いいを飾るのだからかっこいい。


それに対して元希は違う。
努力はこの中で、いやこのクラス内でだって1位を取ることができるくらいにしているのだ。
それなのにテストは常に350点前後。
僕から見れば十分な点数なのだが彼は違うらしい。

努力がなかなか実らないのだ。
彼は柔道の稽古も毎日欠かさす時ている。
それプラス勉強だ。それじゃあ確かに脳も働かないのかもしれない。


さらに隣に智也というあり得ないくらいの天才がいるのだ。

彼の本心は分からないけどやはり多少の妬ましい気持ちもあるのではないかな、と思う。