「全く。……貴女の戸惑いが解けるのを待とうと思ったのに。これでは私が罰を受けている様なものです」

 掠れた声で囁かれた言葉に、再び唇を塞がれていた翠玉は答える事が出来なかった。

 身体をなぞる指先に翻弄されながらも、ふと意識の片隅に、例の紙に書かれた文章を思い出した。

 『明日には戻る』。今はまだ夕方にさえなっていない時刻だというのに──もうその時に、もしかしたら。

 この人は領主としてだけではなく、常に確信犯なのかもしれない。

 朗世が侍女に伝えた言葉の通り、翌日の午まで『夫の証明』を受けた翠玉は、くらくらする頭と疲労した身体で、嫌という程それを思い知らされたものだった。