六天楼(りくてんろう)の宝珠

「まあそういった事も充分考えられるでしょう、という話をしたのです」

「はっ──いやあの。……どういう事ですか」

 腕の中でもがく妻を両腕で固定して、碩有はにっこりと微笑んで今しがたかざしていた紙切れを見せた。

 そこにはこう書かれていた。

『琳夫人が見つかった 奏天楼にいるので心配しない様伝えて来い 明日には戻る』

「少しは反省して頂けるかと思いまして」

「なっ──。だ、騙したんですか!? あんまりです!」

 逃れようと更に手足を動かすが、殊の外強い力で捕まえられていて、びくともしない。

「あんまりだ、はこちらの言葉でしょう。『庭で迷った』かと思えば、よりによってこの部屋に入り込んでいるとは──鍵が掛かっていた筈です。一体どうやって──いや」

 腕の力が緩んだと思うと、翠玉の両頬にそっと手が添えられた。

「……それよりも房に戻っていないとなれば、周りがどれだけ心配するか。わからないわけではないですよね」

 怒鳴られるより尚酷い、と彼女は覗き込んで来る夫の眼差しを見て思った。

 しかも真剣な表情になると、気のせいか疲れて憔悴している様にも見える。

 『庭で迷った』という表現を使ったという事は、自分が其処にいたとわかっていたにも関わらず、不問にしてくれるというのだろうか。

「ごめんなさい……」

 この人はどこまで自分を、甘やかす気なのだろう。

 厳しい言葉で罵ったり、言う通りの罰を与えれられたのなら。

 そうしたらきっと、この胸の苦しさはむしろ軽くなるのかもしれないのに。

「でも、どうして私がこの房にいるとわかったのですか」