「止さないか。翠玉の目の前だ」

 は、と短く答えて朗世は衛兵に力を緩める様に命じた。

「碩有様……」

 いつの間にか背中に寄り添って布地を握り締めている妻を振り返って、彼は穏やかに微笑んだ。

「心配されるには及びませんよ。とりあえず、房に戻りましょうか」

 肩に腕を回して、庇う様に扶慶の脇を通り過ぎる。

「待て──お待ち下さい! 榮葉は、あの女はどうなさるおつもりか」

「朗世、連れて行け。私もすぐに戻る」

 碩有の言葉に衛兵達が動き出した。その腕越しに翠玉は振り返り、連行されてゆく扶慶を目で追う。

「あ、あの。今確か、榮葉って」

「はいはい、此処にいては危険ですから帰りましょうね」

「碩有様! 私は子供ではありませんよっ」

 翠玉は無理やりに立ち止まると、夫に正面から向き直って睨み上げた。

「どういう事ですか? 説明して頂くまで、ここを動きませんからそのおつもりで」

「……困りましたね」

 碩有は僅かに眉をひそめると、いきなり翠玉を横抱きに抱え上げた。

「きゃっ!?」

「話すにしても、ここから一刻も早く離れた方がいい。──私の心臓を止めたいと思うのでなければ、供も連れずに抜け出すのは金輪際お止め下さい」