上半身を起こして、莉を抱き上げようとして気付く。

──私、寝着を着ている。

 一瞬昨晩の事は妄想が為せる夢かと思いそうになったが、首には首飾りが掛かったままだ。辺りを見回しても確かにいつもとは寝具の様子が違う。普段上げてある帳(とばり)が下りていて、外が見えない様になっていたのだ。

 となれば導き出される答えは一つしかない。

「あの、翠玉様……お目覚めになられましたか? もし宜しければ、帳を開けさせて頂きますが」

 ぼんやりと人影が布地に写って、紗甫の躊躇いがちな声がした。

 翠玉は慌てて首飾りを外すと「ええ、いいわ」と出来るだけ冷静に返す。

 程なく音がして、開けられた場所から清々しい光が真っ直ぐ彼女に降り注いで来た。朝というには、時が過ぎているのだとようやく気づく。

「おはようございます」

 侍女の振る舞いはいつもと変わらない。変わったのは自分の方だろう、振り払おうとしても昨夜の出来事が頭から離れない。

「湯殿の支度が出来ておりますので、ひとまずこちらにお召し替えを」

 差し出された着物を羽織ろうと、寝台から立ち上がる。途端に全身が僅かに痛みを覚えた。

 痛さに眉をひそめる。怪我のそれまでは行かないが──一体どうした事だろう。

「どうかなさいましたか?」

「あ、いえ。何でもないのよ。それよりも、この子をお願い」

 翠玉は莉を侍女に預け、覚束ない足取りで房の隣の湯殿へと歩いていった。