僕はそれから、悩んだ。
父の名前だけで僕が注目されるのは嫌だったし、有名になるなら僕の腕で決めてほしかった。
“久野清二の息子”
僕はたしかに父を尊敬しているが、だからといってそんなブランドの商品になるのは嫌だった。
しかし実際、僕の姉は“久野 舞”というブランドでもって世界中を駆け回っているし、そのきっかけとなったのはこのフランスの写真コンテストだ。
僕は、悩んだ。
だけど僕は、あの日の彼女、佳世の写真を見たときに決めた。
コンテストに参加してみようって。
久野 樹として。
ひとりのカメラマンとして。
そのためには、佳世が必要だと思った。佳世を撮りたいと思った。