織理江は玄関のドアを開けて、「恋助」と呼びかける。

靴を脱いで中へと進んで行くと、彼はフローリングの床にあぐらをかいて、テレビゲームをやっていた。


「具合どう?」


織理江を見上げると、マスクを顎に下げて答える。


「熱下がったのはええけど……」


手荒にコントローラーを放り投げ、叩くように本体の電源を切る。


「暇過ぎてしゃーない!」


声の質は数日前より悪化していて、ガサガサしていた。

言葉の所々で声が出たり出なかったり。

マスクを下げていなかったら、きっと聞き取れなかっただろう。


織理江は困った風に笑って、隣に座った。


「かわいそー。はい、これあげる」


カバンの中から取り出したのは、箱に入ったのど飴。

気に入っていていつも買っているメーカーのものだった。


「おー!」

「それから、前貸してって言われてた漫画と、ゲームね」


弟から拝借してきたんだと言いながら、単行本3冊とゲームソフトが1本。


「圭太くんに、おおきにって伝えといて」

「それからCDも。あとレポート一緒にやろうと思って──」


カバンから様々な物を出す様子を見て、恋助の口は開きっぱなしになっていた。


「まるで、どら焼き食いネコのポケットやな」

「暇つぶしになるでしょ?」

「ホンマにありがとー。けど、持ってきてもらっといてアレやけど、あんまり寄ると風邪移るで?」