風呂から上がると、僕は階段を上がって真っ直ぐ部屋に行く。


茶色いドアを押し開けると、白い壁紙と灰色のブラインドが見えた。

それから学習机と小さなテレビ、白いテーブル、ベッド……。

この部屋は出て行った時のままだ。


ベッドにあぐらをかくと、何か物足りない気がした。

ああ、そうだ。

ギターは置いてきたんだということに気付いて、小さな溜め息をする。


そうやってベッドにうつ伏せに転がった時も、何か足りないと感じた。

いつもの癖で僕はベッドの端に寄っていた。

それも、綺麗に一人はまるくらいに。


その空いた面積に手を伸ばす。



(……何してるかな、太田)



──そうだ、加奈の彼氏について、太田は何か知っているんだろうか?


携帯電話を持ち上げて──少し迷った。

それを聞いたとして、何になるんだ?
別に加奈のことなんてどうでもいいじゃないか。


だけど、気になる。

加奈を相手に選んだ奴が、どんな男か知りたかった。


そこで電話をする決心がついた。相手は太田だ。

加奈じゃなくて、太田。

加奈に直接聞くなんて悔しくてできない。

僕がそういうことに興味を持ってるって、思われるのも面倒だから。


『もしもし? もう家に着いたの?』


聞き慣れた彼の声に、僕は安心していた。


「うん。太田は今どこ? あ、今電話して大丈夫だった?」

『今実家にいるよ、大丈夫。それにそろそろ電話しようと思ってたから』


「ホントに?」と思わず聞き返してしまった。


『本当だよ。ちゃんと家に着いたのかな、って』


いつもあっさりした奴だから、あっちからは何も仕掛けてこないだろうと思っていたのに。

そう思うのと同時に、僕はふと気が付いた。

今、電話しようと思ったのは加奈の事が気になるから──じゃない。

そんなのは口実で、本当は太田に電話したかった──のかもしれない。

だって声を聞いただけで、何故だかホッとしている自分がいる。


「うん、ありがとう」


太田はクスクス笑っていた。


「……あのさ、加奈のこと、なんだけど……」

『うん?』

「彼氏、いるんだな、あいつ……」