「寒かっただろ? 乗れ乗れ!」


助手席にどっかり乗り込むと、ゆっくりと車は発車した。


父さんはフロントガラスの向こうを見据えたまま語りかけてくる。


「こうして会うのは久しぶりだな。あっちは雪、まだ降らないのか?」

「一瞬だけ」


「そうかあ」と笑う父さんの横顔を見る。

今まで気にもしなかったけれど、輪郭や口の形が僕そっくりだな、と思う。

いや、僕が似たんだ。

そういうことに気づけるようになったのは、僕が成長して、父さんに近づいたからかもしれない。


「加奈ちゃんはどうしてた? 連絡、とってるんだろ?」

「一緒に帰って来た。加奈は全然変わってない。……ちょっと大人びて嫌な感じしたけど」


父さんはちらりと僕に視線をやって、また戻した。


「なに?」

「お前も大きくなったと思うけどなあ」


僕も笑った。


「ホントに言ってる?」

「お世辞だよ。変わってないな」

「だろ、やっぱり」

「残念だなー。金髪にして、顔のあちこちに金属付けた男になって帰ってくるのを期待してたぞ、母さん」

「嘘っ!?」

「あっはは、嘘だよ、ウソ! 俺はちょっと想像してたけどな、耳くらいは穴空いてんじゃないかって」

「えー」

「でも安心した。親バカのようだけど、しっかりした奴だよ、拓也は。遊ぶために出て行った訳じゃないんだもんな。ちゃんと進路も決めてたって、母さん喜んでたぞ」

「ふーん……」


毎日ギターや歌のことばかり考えて生活していた僕にとって、その言葉は痛かった。

何だか、目の前で堂々と嘘をついている感じがするのだった。