「ここに決めたのね?」

「はい」


癒威は、視線を揺るがすことなく頷いた。

職員室までわざわざ出向いた態度にも、希望進路にも、担任は大満足だった。

彼の成績なら何の心配もない。

担任は進路希望の紙を受け取って、にっこり笑う。


「進路に向かって、頑張って」


頭を下げて、癒威は職員室を出た。


「太田くん」


教室に戻る途中で加奈に呼び止められた。

バレー部の練習着のままだ。

今は冬休み中であるから、部活のために来たのかもしれない。


「太田くんも学校に来てたんだね!」

「咲城さんは、これから部活?」

「うん。……あの」


加奈は一度自分の髪に手を当てて、躊躇いがちに話し始めた。


「今、時間あるかな? 話、聞いてくれる?」

「いいよ。どうしたの?」

「太田くんって、三谷くんと仲良しでしょ? ……三谷くん、普段はどういう人なのかな?」


突然の話に多少の驚きを覚え、疑問を感じる。

加奈が男子生徒のことを話すなんて、珍しい。


「どうって……見ての通りだよ。部活に真面目で裏表のない──。で、三谷がどうかした?」

「うん……」


と頷いた後、しばらくは沈黙が続く。

あまり人が通らないといっても、廊下では話しづらいことなのかと思い、


「他の所で話す?」


と促してみたけれど、彼女は首を振り、

「大丈夫」と言い、さらに「誰にも言わないでいてくれる?」とつけ加えた。


癒威が約束を飲むと、加奈は深呼吸をしてから、弱々しい声で、


「あのね、……告白、されちゃったの」


と話し出す。