その夜は、剣崎さんと織理江さんがよくしてくれたおかげで、僕は最高の誕生日とクリスマスを過ごすことができた。

売り物なら高い値がつくであろう剣崎さんと織理江さんが、無償のバースデーライブをしてくれたのも、とても嬉しかった。

アパートだからあまり大きな音は出せなかったけど、派手なサウンドなんかなくたって、二人の歌は素敵なのだ。


いろんな話をして盛り上がっていくうちに、気が付けば10時すぎ。

名残惜しいけれど、僕らは帰ることにした。




しばらく電車に乗って、小さな駅で降りると、人の足音や話し声は聞こえない。

夜道には車の音だけが響くだけで、急に寂しくなる。


頼りない街灯が照らす歩道を、僕と太田は並んで歩きながら、話をした。


「何か夢みたいだったなー、17の誕生日」

「もうちょっとで3年生」


僕はムッとなって、軽く太田を肘で押す。


「せっかく喜んでたのに嫌なこと言うなよな」

「ごめん! だって……槍沢くんと一緒にいられるのも、あと1年だなーって思ったら、寂しくて」


それは、分かっていた。

でも太田の口からそんな台詞が出てきたから、余計に寂しさが増した。

急に現実に引き戻された感覚に、僕は少し怯えていたかもしれない。


太田は苦笑していたけれど、僕は上手く笑えずにいた。

そんなことは関係なしに一瞬は過ぎていくもので、僕が気後れしていることなど知らず、太田は平然と話し続けるのだ。


「でも受験さえ乗り切れば、また今までみたいに時間がもてるんだよね。バイトしたり、遊んだり──」


確か太田は進学するはずだ。

彼は成績が良いから、きっと有名な学校を受験して、難なく合格するのだろう。


「太田は、どこの大学に行くの?」

「剣崎さんと同じ学校にしようかな、って考えてたとこ」


案外あっさりとした返答に僕は拍子抜けした。